marginal62の書籍レジュメ化ブログ

はじめまして、marginal62です。訪問いただきありがとうございます。ここでは、自分が読んだ書籍を自分なりにレジュメ化したものを掲載しております。専攻している法律系の書籍が中心となりますが、その他にも気になったものはレジュメ化していきます。レジュメ化する趣旨は、自身の学習の過程をついでに発信してしまおうというものです。これを見てくださった方の学習等にも役立ち、また、コメント等を通じて情報や意見の交換ができれば、なお嬉しいです。各種資格試験にも挑戦しております(法律系)。その経過も記事にしていきます。

選択債権における不能による債権の特定

こんばんは、marginal62です。

今回は、民法改正を受け、債権の目的に関して改正点を1つ。

 

【選択債権における不能による債権の特定】

<改正前>

選択債権の目的のうち、ある一つの給付が不能な場合の取り扱いにおいては原始的不能と後発的不能とに場合分けをして考えていた。

原始的不能の場合、債権の目的は給付可能なものに特定される(旧401条1項前段)。

なぜなら、原始的に不能な給付を内容とする債権は成立しないと考えられていたためである(通説)。

後発的不能の場合、給付が不能になったことにつきどちらの当事者に過失があるかによって場合分けがされていた。

①選択権を有しない当事者の過失による場合、選択権者は不能な給付も選択可能であった(410条2項)。

②それ以外の場合、債権の目的は給付可能なものに特定される(旧401条1項後段)。

 

<改正後>

新法は、原始的不能の給付を内容とする債権も有効に成立するとの立場を採用している(新412条の2第2項参照)。

よって、不能が原始的なものか後発的なものかの区別をする理由がなくなった。

(原始的不能、後発的不能を問わない。)

新法では、①選択権者自身の過失によって給付の不能が生じた場合、債権は残存する給付に特定される。

②それ以外の場合(選択権を有しない者の過失による不能や不可抗力などの誰の過失によるのではない不能)、選択権は消滅せず、不能となった給付も選択可能。

後者の場合、債権者は履行請求はできないが(新412条の2第1項)、履行不能を理由に契約を無催告解除できる(新542条1項1号)。

なお、契約の解除要件から債務者の帰責事由が外された関係で、債務者に帰責事由がないことは契約解除権に影響しない。

さらに、給付の不能につき債務者に帰責事由がある場合、債権者は履行不能に基づき損害賠償請求することができる(新415条1項・2項1号)。

原始的不能の場合も同様の旨の規定として、新412条の2第2項。

 

 

白川郷旅行

先日は白川郷へ旅行に行ってきました、marginal62です。

移動時間が長かったうえ、少し寒かったので体力を消耗しました。

あてもなくぶらついてみたり、バスを待って待ちぼうけくらってみたり、

美味しいものも沢山満喫できて、よい旅行となりました。

雪化粧はまだ先かな、、


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民事執行保全法【非金銭執行】

1 民事執行は、強制執行、担保権実行競売、換価競売及び債務者の財産開示手続に分類される。このうち、強制執行については、金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行を金銭執行、金銭の支払いを目的としない請求権についての強制執行は非金銭執行と位置付けられる。非金銭執行は執行の面では、①物の引渡し・明渡しを目的とする請求権(与える債務)と、②作為・不作為を目的とする請求権(為す債務)とに大別される。

2 物の引渡し・明渡しを目的とする請求権についての強制執行

 ⑴物とは金銭以外の有体物をいい、物が不動産か動産かにより、また物の占有状態に  より、①不動産の引渡し・明渡しの執行、②動産の引渡しの執行、及び③第三者占有物の引渡しの執行に大別される。

 ⑵不動産等の引渡し・明渡しの執行

  不動産の引渡しとは、不動産の占有を移転することをいい、明渡しとは、居住する人を立ち退かせ、または置かれている物品を撤去した上で占有を移転することをいう。船舶の引渡しは原則として動産引渡しの執行方法によるが、人が居住している場合は、家屋の引渡し・明渡しと同様の執行方法による。不動産についての執行方法は、債権者の申立てに従い、直接強制または間接強制による(民事執行法(以下、法令名省略。)168条・173条)。直接強制は債務者以外の者が占有している場合にはできない。もっとも、債務者の家族その他の同居人で債務者に付随して居住しているに過ぎない者に対しては債務者の債務名義で執行することができる。これに対し、賃借人のように権原により独立の占有を有している者については、別途それらの者に対する債務名義が必要である。

 ⑶動産の引渡しの執行

  債務者が占有している動産の引渡しの強制執行は、債権者の申立てに従い、直接強制または間接強制により行われる(169条・173条)。動産には有価証券を含むが、人の居住する船舶・自動車等は含まない(169条1項)。動産引渡しの執行の場合、債権者(またはその代理人)が強制執行の場所に出頭しなくても実施できるが、執行官においてその動産を保管しなければならないため、執行官は当該動産の種類・数量等を考慮してやむを得ないとするときは、執行の実施を留保することができる。

 ⑷第三者占有物の引渡しの執行

  不動産・動産を問わず第三者が執行目的物を占有している場合、債務名義の名宛人になっていない第三者に対して物の引渡しの強制執行をすることは原則としてできない。

3 作為・不作為を目的とする請求権についての強制執行

 ⑴作為・不作為を目的とする請求権はいわゆる為す債務であるから、執行においては、人格の尊重という近代法の思想からして、直接強制の方法をとることはできない。作為・不作為を目的とする請求権は、①代替的・不代替的作為を目的とする請求権、②不作為を目的とする請求権、及び③意思表示を目的とする請求権とに分けられる。

 ⑵代替的作為請求権の執行方法

  代替的作為請求権とは、請求権の目的である行為が債務者以外の第三者によってなされても、債権者が受ける経済的・法律的効果において債務者自身がした場合と差異を生じない請求権である。執行方法としては、一般的には代替執行が用いられる(171条1項)。また、間接強制によることもできる(173条1項前段)。債権者は債務名義に基づき執行裁判所に対し授権決定を申立て、執行裁判所は当該申立てを認める場合は授権決定をする(171条1項、民法414条2項本文)。授権決定をする場合、債務者を審尋しなければならない(171条3項)。授権決定は債務名義ではなく執行分付与を要しない。

 ⑶不代替的作為請求権の執行

  不代替的作為請求権とは、債務者に代わって債務者以外の第三者が作為をすることが法律上又は事実上不能であるか、仮に可能であっても債権者に対し債務者がなしたのと同様の効果を与えることができないような行為を目的とする請求権をいう。よって、債務者自身が行為をしない限り債権の内容は実現されない。そこで間接強制により、債務者に心理的圧迫を加え債権の実現をはかる。ただし、間接的にも履行を強制することが公序良俗に反するような債務や強制したのでは本来の債権の内容の実現が期待できないような債務、債務の履行のために債務者の意志のほかに、特殊の設備や技能又は第三者の協力が必要な場合な間接強制はできない。

 ⑷不作為請求権の執行

  これは債務者が特定の不作為義務を負っている場合の強制執行である。不作為義務には、債務者の積極的な行為の禁止を求めるもの(狭義の不作為義務)と、債権者なり第三者のなす行為を受忍し、それを妨害しないことを内容とするもの(受忍義務)がある。

 ⑸意思表示を求める請求権の執行

  債務者の意思表示を目的とする請求権は不代替的作為義務であるため、間接強制(172条)によることもできるが、意思表示がなされた場合と同一の効果が生じればそれで足りるため、意思表示を命ずる裁判をもって債務者の意志表示に代える判決代行の方法をとる。

民事執行保全法【不動産執行】

①現況調査とは、執行裁判所が差押えの効力を確認した後に現況調査命令を発することで、執行官が不動産の現況を調査することをいう(民事執行法(以下、法令名省略。)57条1項)。対象は、土地の場合、土地の所在地、形状、現況地目、境界、占有者と占有の状況など、建物の場合、建物の種類・構造・面積、占有者と占有の状況などである(民事執行規則(以下、単に規則とする。)29条1項)。執行官は現況調査の結果を現況調査報告書にまとめ、執行裁判所へ提出する。現況調査報告書は、その写しが一般の閲覧に供され買受希望者の重要な判断資料となるのみならず、評価人が評価の際に権利関係を判断し、書記官が売却条件を決定し、執行裁判所が売却基準価格を決定し、売却のための保全処分や不動産引渡命令を発令する際の、重要な判断資料の機能も有する。執行官は、買受希望者との関係で当該不動産の現況をできる限り正確に調査すべき義務を負う。調査・判断の過程が合理性を欠いたため現況調査報告書の記載内容と当該不動産の実際の状況との間に看過しがたい相違が生じた場合は、執行官はこの義務に違反したものとして、国は国家賠償法に基づく損害賠償責任を負う。

 ②不動産の評価とは、執行裁判所が現況調査命令と同時に評価命令を行うことにより、執行裁判所が選任した評価人が不動産を評価することをいう(58条1項)。評価人は、通常は不動産鑑定士から選任される。また、評価は不動産鑑定の手法が用いられ、評価人は評価書を作成し執行裁判所に提出する(規則30条)。評価書は、その写しが一般の閲覧に供され、買受希望者の重要な参考資料となることのほか、執行裁判所が売却基準価格を定める際の重要な資料となる。

 ③売却基準価格の決定は、評価人の評価に基づいて執行裁判所が決定する(60条1項)。ここで売却基準価格とは、不動産売却の額の基準となるべき価格である。売却基準価格制度の趣旨は、一般に財産的価値の高い不動産が不当に低い価格で売却され、債務者や債権者の利益が不当に害されることを防ぐとともに、目的不動産の参考価格を提示して、買受申出を希望する者が買受申出の額を決定する際の適切な指針を与える点にある。

 ④物件明細書とは、当該不動産に関する権利で買受人の引受となるものや、法定地上権などについての裁判所書記官の認識を記載した書面である。必要的記載事項として、不動産の表示、当該不動産に係る権利の取得と仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの、及び売却により設定されたとみなされる地上権の概要がある(62条1項)。占有者及び占有権限に関するもの、建物の敷地利用権に関するもの、及び区分所有建物の滞納管理費などは任意的記載事項とされる。また、物件明細書は買受人の意思決定のための判断資料の提供や引渡命令発令の可否についての判断資料の提供などの機能を有する。物件明細書は現況報告書と評価書とともに3点セットとされている。

 ⑤剰余主義の原則とは、不動産上に物権が存在する場合に、物権相互の優先順位、さらには物権が無担保債権に優先するという順位は、不動産強制競売においても尊重されるという原則である。強制競売において剰余主義の原則が問題になるのは、債権者が債務者の不動産を差し押さえた場合に、当該不動産上に債権者に優先する物権が存在する場合である。このとき、売却条件として当該物権を引受けとした場合(59条2項・4項)、優先する物権は売却により消滅せず買受人の下で存続するため、剰余主義に適合した結果となる。他方、消除とした場合は、無担保債権者が申立てた強制競売により担保物権が消滅するため、剰余主義に反する結果が生じる。そのため、このような場合に剰余主義を維持するための制度として無剰余措置がある(63条)。すなわち、売却代金から強制競売を開始させた債権者に優先する物権の権利者に完全な弁済をすることを要求し、弁済が可能となる額で当該不動産が売れない場合、売却自体をしないという措置をとる。

 ⑥売却のための保全処分は、差押えにより把握された不動産価値の減少を防ぐための差押え処分禁止効では防げない価値の減少を回避するための制度である。申立人は、差押債権者である。審理は密行性の要請から書面審理により行われると解される。要件としては、債務者または占有者が作為あるいは不作為により価格減少行為をすることである(55条1項)。価格減少行為とは、不動産の価格を減少させ、または減少させるおそれのある行為をいう。ただし、当該価格減少行為による不動産の価値の減少またはそのおそれの程度が軽微であるときは認められない(55条1項ただし書)。

行政書士試験

こんばんは、今日は行政書士試験でした。

去年が合格率が高く、比較的解きやすい問題であったため、今年は難易度が全体的に高くなったようですね。

(問題はまだ見ていない)

私も入手して解いてみようと思っています。

合格点以下だったら資格返還しようかな笑

本日受験された方お疲れ様でした。

今日はゆっくり体を休めてください。

商事担保 多数債務者の連帯

数人の債務者がいる場合につき、別段の意思表示がないとき

民法→民427(各債務者は平等に義務を負う。)分割債務の原則

   相対効(民440)

   絶対効→請求(民434)、更改(民435)、相殺(民436)、免除(民437)、混同(民438)、

       時効(民439)。

商法→商511Ⅰ(連帯債務) 企業取引活動における債務の履行を確実にして債権者保護を

   強化し、これにより取引の安全と迅速を図るため。

   ※適用は債務者にとって商行為となる場合であって、債権者にとって商行為とな

    る場合は射程外。債権者にとって商行為であるからといって、非商人の責任を

    強化するのは適切でない。同一性のある債務(損害賠償請求権や解除の際の原状

    回復義務)にも適用。

フリートリッヒ・リスト【倫理・分権思想と経済学】

こんばんは、marginal62です。

今回はリストの倫理・分権思想と経済学について書いてみました。

まとまっているかは疑問ですが(専門分野ではないので専門分野ではないので)

 

 フリートリッヒ・リストは、自らの自治・分権的な政治構想を支える思想をコルポラティオン論で展開する。そこでは、自治的共同体を発生史的に、ゲマインデから地方、州、そしてその延長線上に国家の存在を見ている。ここでリストは、国家をも自治的共同体のひとつと考えると同時に、その国家も自らの共同の目的のために、ゲマインデを構成する市民によって結社として自由につくられたものであると主張する。さらにリストは、機関信託論にもとづいて議会の憲法草案に対する批判を展開している。具体的には、「ヴェルテンベルク憲法闘争」の中で議会が準備した憲法草案では、参事会のメンバーを郡長が一元的に任用することになっていた。それは、参事会が郡長と書記の監督・指導のもとにおかれていることを意味するため、市民的自由(自治・分権)の立場から、リストはそれを容認できないとした。他方、機関信託論は参事会にのみ適用されたわけではない。つまり、国王の意志は常に臣民の福祉を図ることにあるが、その過程においてそれに反することがあった場合、その責任は国王ではなく国王の意志の実現に効力を持たせるために副署をした大臣に求められる。ここでは、国王の信託と臣民の信託を同一のものと考え、国王の信託を経由した形で国民からの機関信託論の論理を貫徹させている。

 リストはその著書『経済学の国民的体系』において、経済学の国民的原理を明らかにすることを課題とする。それに関連してリストは、人間の社会を世界主義的な観点と政治的観点の二重の観点から見ることができるという。前者は普遍主義の原理を意味し、後者は国民的原理を意味している。さらにリストは、普遍主義の原理に立脚したものが交換価値の理論であり、国民的原理に立脚したものを生産諸力の理論であるという。ここでリストは、富をつくり出す力は富そのものよりも無限に重要であるとする。また、スミスの『国富論』を読み替えながら初期の農業・工業状態にふさわしい経済原理を確立しようとしている。その場合、リストによれば生産諸力が重要な基本的要素となる。さらに、リストは生産諸力を国民的なレベルにおいてとらえようとしている。これは国民的生産力という考えであり、国民生活の精神面に関わる精神的生産力、国民生活の物質面に関わる物質的生産力、及び国民の社会生活全般に関わる社会的生産力の3つから構成されている。この考えは、分業こそが労働の生産諸力を改善させる原因であるというスミスの根本原理を承継したものである。そして、国民的分業の構想とは精神的生産と物質的生産の、または農業と工業と商業の分割と結合をはかることである。ここでスミスの生産的労働論と比して、リストは農業・工業・商業の分野の労働は交換価値を物質的に生産するため生産的である一方、生産諸力を生産する労働も、物質的生産諸力の担い手たちを育て支える精神的な労働であるから生産的であるとする。すなわち、国民的分業の担い手とは、農業者、製造業者、商人のほかに、公的領域での仕事に従事する公共社会の使用人である。よって、リストは、農業者、製造業者、商人というような生産者層と公的な領域での仕事に従事する階層の市民的自由を基礎とし、都市や農村のゲマインデとを結合した地方から、州を経て国家へと重層的にのぼっていく、下からの自治・分権的な社会の樹立こそが社会的生産力と考えた。

リストの生産諸力の理論を特色づけるものに工業力優位の思想がある。つまり、リストは工業力の樹立を通して農業生産の停滞を解消するとともに、都市と農村の連携を通じて市民的自由・自治の担い手を農村部にも育てていくことを考えていた。それは同時に、農業者、製造業者、商人といった旧市民層と呼ばれる人々を、近代的な自由の精神に基づく新市民層へと転換させるものでもあった。リストの工業力優位の思想は、農業者と製造業者の分割・結合を強めることからはじまる。次に、その間をとりもつ商人をも含めた市民層の自由な意識を、都市と農村が一体となった局地的あるいは地域的な市場という自立した経済基盤の形成により育てていく。それから順次に地方市場、国内統一市場という自立した経済基盤を拡大することで、都市と農村のゲマインデの結合体である地方から州、国家へと重層的にのぼっていく自治・分権的な政治機構に照応した個人としての自由な市民層を国民的レベルで育てていこうとするものであった。またリストは、この工業力優位の思想を確かなものにするため、作業継続の原理を提唱する。これは時間的広がりでの分業論を展開したものである。さらにリストは、国内産業を保護・育成する保護関税制度の必要性も主張する。ここでリストは国際的分業を語るが、それは隷属的なものとする。つまり、ドイツにおける利害を最優先にした思想であった。

アダム・スミス『道徳感情論』『国富論』

アダム・スミスはその著書『道徳感情論』において、3つの徳性として、慎慮・正義・慈恵の徳性をあげる。これは、市民社会における基本的な諸特性である。ここで正義の徳性について、スミスは道徳の領域の問題として考えている。また、慈恵の徳性について、人々は私益の追求のみならず、公益にも配慮するという。そして、正義の徳性については同感の原理を、慈恵の徳性については見えざる手の思想を、それぞれの説明原理として用いている。

スミスは、人間の本性の中にある原理として、利己的なもの(自愛心)と哀れみまたは同情の2つをあげる。スミスは、哀れみ・同情と同感は明らかに違った意味合いを持つという。すなわち、同感の対象領域は哀れみ・同情よりも拡大されており、人間の喜びや悲しみのすべてに及んでいるのである。では、人々の同感はどのようにして成立するのか。この点、観察者は自分の立場にとどまらず当事者の立場に自らを能動的に置いて考察し、また、観察者の努力のみならず、当事者は観察者がついていける程度に自分の情念を抑える努力が必要である。したがって、同感を成立させるには、観察者と当事者の双方の努力が必要なのである。さらに、同感の成立は社会的規模のものでなければならず、中立的な観察者が当事者の行動の諸原理に入り込めるように(同感できるように)当事者は行動しなければならない。スミスは、この中立的な観察者のことを人々の良心(世論)と考えている。したがって、中立的な観察者である世論の同感が成立するような私益の追求は正義であるということになる。スミスは、人間の本性を情念とする人間観の立場にいながらも、利己心は悪徳であるという間違いを同感の原理によって指摘し、私益の追求には正しいものもあるということを明らかにした。それは同時に、伝統的な国民管理の道徳思想に代わり、政治権力という強制力に日常的に依存せず、市民の自律的な力によって自由な活動の中に正義を実現するという道徳的自由主義の成立を表すものであった。

次にスミスは、私益の追求と公益への配慮が両立し得る問題を取り上げる。つまりスミスは、目的原因のためにした行動がある結果(私益)を発生させるが、同時に作用原因(見えざる手)によって違う結果を発生させるという。また、スミスは、自然現象を説明するときに人々は目的原因と作用原因を区別するのに対し、社会現象を説明するときには両者を混合しがちであると指摘する。そして、目的原因が正しい限り、その正しい私益の追求と公益への配慮は両立するのである。

 スミスは、その著書『国富論』において文明社会の豊かさの秘密を明らかにすることを課題としている。ここで、文明社会の豊かさとは生活の必需品と便益品とが人々に多く供給されていることである。そして、スミスによると文明社会の豊かさの秘密は分業の結果であったという。すなわち、文明社会は同時に分業社会であり、また、分業が原因で労働の生産諸力において最大の改善が実現し、その結果文明社会も豊かになったという原因と結果の関係で分業と労働の生産諸力の関係は考えられている。ここで分業社会とは、分割された労働を担う自由な諸個人が社会的に結合されている状態をいう。そして、このような分業社会の形成が文明社会の行き詰まりを打開するもの考えられていた。そして分業の導入した結果、技能の増進(労働力の質的向上)や時間の節約(労働密度の強化)、機械の発明(労働する人間が用いる生産手段の改善)がなされ、生産諸力を増大させるという。他方、分業が発展するにつれ、社会全体を見通す視点が人々の頭脳から失われていく危険性があることも指摘している。

スミスは価値論によって、分業社会の基本構造を明らかにしている。ここで価値という言葉には、ある特定の対象物の効用(使用価値)とその所有から生じる他の財貨に対する購買欲(交換価値)の二通りの意味がある。ある特定の対象物の効用とは、財貨の交換を望む相手にとってそれを消費することで自分の欲望を満足させるものをいう。また、使用価値は交換という社会的な行為を成立させる重要な要因であり、交換価値も同様の役割を果たす。換言すると、交換という社会的な行為・関係が成立するためには、使用価値と交換価値という社会的な機能をもったものが同時に成立しなければならないのである。

以上より、文明社会の豊かさ(労働の生産諸力の改善)を実現するには、分業社会、すなわち分割された労働を担う自由な諸個人を社会的に結合する社会システムを形成することであるということになる。また、価値論においては分業社会の基本構造を明らかにし、そこには同時に政治権力の介入を日常的には避けて、正義の判定者たる貨幣を通じて(市場を通して)自由な経済活動を維持していこうとする、スミスの経済的自由主義が成立した。